慢性的な下痢の背景には、様々な疾患が存在します。原因を特定するためには、機能性の障害なのか、粘膜に炎症や腫瘍がある「器質的疾患」なのかを見極める作業が欠かせません。
過敏性腸症候群(IBS)と脳腸相関
消化器外来を受診する慢性下痢患者の中で高い頻度を占めるのが過敏性腸症候群(下痢型:IBS-D)です。腸と脳は自律神経系や神経伝達物質を介して密接に連携しており、これを「脳腸相関」と呼びます。プレッシャーや緊張を感じると、脳のストレスシグナルが腸へとダイレクトに伝達され、セロトニンの分泌過多などを招いて大腸の蠕動運動を暴走させます。通勤途中の電車内や大事な会議の直前に激しい便意を催すのが典型的なパターンです。
潰瘍性大腸炎(IBD)などの炎症性疾患
厚生労働省の指定難病である潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性的な炎症や潰瘍が生じる疾患です。初期は軟便や軽い下痢程度で始まることがありますが、進行すると便に血液や粘液が混じる「粘血便」が日常化します。「下痢止めを飲んでも一向に改善しない」「トイレから出られないほどの頻尿感(しぶり腹)がある」といった症状が現れた場合、速やかな専門的鑑別が求められます。
大腸がんの初期サインとしての便通異常
最も警戒すべきは大腸がんに伴う便通異常です。大腸の管腔内に腫瘍ができると、便の通過障害が生じます。固形の便が通過しにくくなる一方で、液状の便だけが腫瘍の隙間をすり抜けて排出されるため、「頑固な下痢」や「下痢と便秘の繰り返し」という症状が現れます。「便が以前より明らかに細くなった」「便の表面に赤黒い血が付着している」という兆候は、大腸がんの代表的な警告シグナルです。