ケンタロウの料理を語る上で欠かせないのが、偉大な母・小林カツ代の存在である。手早く、無駄がなく、何より食べて美味しい。彼女が提唱した「働く人のための家庭料理」のエッセンスは、息子であるケンタロウの手によってよりストリート感あふれる、カジュアルなスタイルへと進化を遂げた。
「男の料理」といえば、休日に父親がこだわりに任せて高価な食材を買い込み、台所を散らかして作るもの——そんな昭和的なステレオタイプをケンタロウは軽やかに壊してみせた。冷蔵庫にある調味料と手頃な肉で、ガツンと旨い一皿を作る。計量スプーンに頼りすぎず、五感を研ぎ澄ませて炒める。彼が提示したスタイルは、若い世代の男性が日常的にキッチンへ立つきっかけを作り、日本のフードカルチャーに決定的なパラダイムシフトをもたらした。
母・カツ代が遺した合理性と、彼自身の感性が融合したレシピ群は、時代が移り変わっても色褪せることのない普遍的な魅力を放ち続けている。