インターネットの医療情報フォーラムや知恵袋などで散見される最大の誤解が、「押して痛いなら癌ではないから放っておいて大丈夫」という短絡的な認識です。この言説は半分正しく、半分は極めて危険なトラップを孕んでいます。
確かに悪性腫瘍の初期は無痛性であることが多いものの、例外は存在します。急速に増大する悪性リンパ腫が内部壊死を起こした場合や、周囲の神経叢を巻き込んで浸潤した場合には、強い自発痛や圧痛を伴うことがあります。また、がんによって免疫力が低下した部位に細菌が二次感染し、急性リンパ節炎と全く同じ痛みの症状を呈することもあるのです。
ここで心理学・行動科学の視点から注意したいのが、現代人に蔓延する「サイバーコンドリア(ネット検索による過剰な健康不安症)」と、その裏返しとして生じる「正常性バイアス(自分だけは重病ではないと思い込む心理)」の相克です。スマートフォンで検索を繰り返すうちに最悪の病名を想像してパニックに陥る一方で、「押すと痛いからただの風邪だ」と根拠のない安心材料を見つけて受診を数ヶ月先送りしてしまうケースが後を絶ちません。痛みの有無はあくまで傾向に過ぎず、確定診断の決め手にはならないことを知っておく必要があります。