2026年初頭のパンデミック直後、日本のマスク自給率はわずか2割程度に過ぎず、残りの約8割を中国を中心とした輸入に依存していました。この脆弱性を克服すべく、経済産業省は「マスク等生産設備導入等補助事業」を立ち上げ、巨額の国費を投入。電機、自動車部品、繊維など多様な業界から新規参入が相次ぎ、一時的に国内の生産能力は月産10億枚規模へと跳ね上がりました。
しかし、供給不足が解消されると市場は急転直下します。中国の大規模工場が稼働を再開し、低価格な製品が再び日本市場へ大量に流入。ドラッグストアやECサイトでは1枚あたり十数円以下で買える輸入マスクが溢れかえり、製造コストの高い国内新規参入組は甚大な打撃を受けました。
この激しい中国産マスク輸入との価格差が、生産ライン撤退の最大の引き金です。人件費や原料費、減価償却費を考慮すると、国内工場で採算ラインを維持するには1枚あたり30円〜50円前後の販売価格が必要でした。しかし、消費者の購買行動が再び低価格志向へと戻る中で在庫は山積みとなり、異業種から参入した中小メーカーを中心に設備の稼働停止や破産、事業譲渡が相次ぐ結果となったのです。
さらに事態を複雑にしたのが、マスク生産補助金の返還問題です。国からの補助金交付には一定期間の生産継続や設備維持の義務が課されていましたが、需要激減によって操業を断念せざるを得なくなった事業者が続出。会計検査院による指摘や補助金の一部返還を求められるケースが報道され、過剰投資のツケが浮き彫りになりました。