2019年、ウイスキー業界に激震をもたらしたのが、三郎丸蒸留所が地元の老舗鋳物メーカー「老子製作所」(富山県高岡市)と共同開発した世界初の鋳造製ポットスチル「ZEMON(ゼモン)」です。寺院の梵鐘製造で国内トップシェアを誇る鋳物技術を蒸留器へと昇華させたこの試みは、ウイスキー製造の常識を覆しました。
従来のポットスチルは銅板を叩いて曲げ、溶接して作られる板金製が主流であり、摩耗による寿命や高額な導入コストが課題でした。これに対しZEMONは、銅と錫(スズ)の合金である「青銅」を鋳造して成形されています。この構造がもたらす科学的なメリットは以下の通りです。
- 酒質の圧倒的な清澄化:銅だけでなく錫の触媒効果が加わることで、原酒中の不快な硫黄化合物を強力に吸着。ヘビリーピーテッドでありながら雑味の極めて少ないクリアな原酒が得られる。
- 長寿命とサステナビリティ:肉厚な鋳造構造のため耐久性が飛躍的に向上し、パーツごとの交換やリサイクルが可能。
- 熱効率の向上:熱伝導率と蓄熱性に優れ、蒸留工程におけるエネルギー効率の改善に寄与。
このZEMONの開発は特許を取得しただけでなく、国内外の他蒸留所へも供給されるなど、ジャパニーズウイスキー業界全体のイノベーションを牽引する象徴的なプロジェクトとなっています。