この凄まじい波に対し、静かに、しかし断固とした視線を送るのが、「すきやばし次郎」の店主として世界の頂点に立ち続ける伝説の職人、小野二郎だ。御歳100歳を超えてなお握りの真髄を追求し続ける彼の存在は、テクノロジー偏重に傾く現代への強烈なアンチテーゼとなっている。
「寿司とは、客の表情、呼吸、温度を感じ取り、その瞬間にしか存在し得ない一貫を差し出す対話である」。AIアルゴリズムが弾き出す「完璧な数値」と、人間が持つ「気配」の絶対的な違い。デジタル化を進める開発チームが彼の元を訪れた際、伝統職人が見せた冷徹なまでの拒絶と深遠な美学は、ドキュメンタリーの中でも最大のクライマックスとして描かれている。