興味深いことに、「ネコ」という記号はセクシュアリティの領域とはまったく別の地平でも息づいている。警察庁をはじめとする法執行機関の捜査現場や、裏社会のアジトで交わされるジャーゴンの中にも、この動物の名は頻繁に顔を出す。
かつての刑事たちの間では、足取りが軽く痕跡を残さない泥棒や侵入盗を「ネコ」と呼称した。また、密輸組織や違法薬物の密売ルートにおいて、捜査の手をすり抜けてブツを運ぶ末端の「運び屋」を指すコードネームとして機能していた記録も存在する。壁を音もなく伝い、暗闇に紛れる動物の生態は、法と不法が交錯する境界線においても格好の隠蔽言語として重宝されてきた。