英語圏で「Cyber(電脳)」と「Hypochondria(心気症)」を組み合わせて生まれた造語「サイバーコンドリア(Cyberchondria)」は、日本語では一般に「サイバー心気症」と訳されます。その中核にあるのは、病気検索で不安が止まらない悪循環です。
この現象に囚われた人の脳内では、認知心理学でいう「確証バイアス」と「破局的思考」が猛威を振るっています。たとえば、一般的な緊張型頭痛の可能性が99%であるにもかかわらず、本人は無意識のうちに「残りの1%である致命的な脳疾患」を裏付ける情報ばかりを熱心に探し出してしまいます。医療検索エンジンのアルゴリズムもまた、閲覧数を稼ぎやすい深刻な病名やセンセーショナルな症例を上位に表示しやすい構造的偏りを持っています。
精神科領域の臨床研究によると、不安を解消するために検索を行う行為は一時的な気休めをもたらすものの、数分から数時間後には「別の見落としがあるのではないか」という新たな疑念を生み出します。この「安心探求行動(Reassurance Seeking)」の反復は、強迫性障害の構造と酷似しており、検索すればするほど耐性がついてより強い刺激(重篤な情報)を欲する依存のループを形成します。