ネット上の掲示板やSNSで「大阪で最も住んではいけない」と長年ステレオタイプに語られてきたのが西成区、とりわけ新今宮・萩之茶屋を中心とするあいりん地区です。昭和から平成にかけての日雇い労働者の街、路上生活者の集積地という強烈なインパクトが、今なおセンセーショナルな噂の震源地となっています。
しかし、2026年現在の現地を歩くと、過去の固定観念を根底から覆す光景が広がっています。かつての簡易宿泊所(ドヤ)群は、国内外のバックパッカーや観光客を受け入れる格安ホテルへとリノベーションされ、駅前には「OMO7大阪 by 星野リゾート」が堂々と佇んでいます。日雇い労働市場としての機能は高齢化に伴って縮小し、かつての「暴動が起きた街」という面影は、歴史的な記録の中にしか存在しません。
地元商店街の店主は、街の変遷について次のように語ります。
「昔は昼間から道路に人が寝転がっていたり、怒鳴り声が聞こえたりした時代もありました。けれどここ数年は、欧米やアジアからの観光客がキャリーケースを引いて歩く姿が日常茶飯事です。治安対策の街頭防犯カメラも張り巡らされ、警察官の巡回も頻繁に行われています。高齢化が進んで静かになった反面、若い外国人旅行者向けのカフェやバルが増え、街の空気感は完全に別物になりましたね」
一方で、路上での違法投棄や高齢者福祉の課題が完全に消え去ったわけではありません。区内の南部(天下茶屋や岸里、玉出)は元より平穏な下町住宅街が広がっており、交通利便性と家賃の安さを重視して移住する若年層も増加しています。「西成=即危険」という認識は、現在の都市機能から見ればすでに過去の遺物となりつつあります。