グリストラップ内で起きる悲劇の主因は、主に二つ存在する。一つは硫化水素中毒、もう一つは酸素欠乏症だ。
腐敗臭の代表格とされる卵腐敗臭の硫化水素だが、高濃度になると人間の嗅覚神経を麻痺させる。臭いを感じなくなったときには、すでに致死量に達しているのだ。気中濃度が数十ppmを超えると目や呼吸器への激しい刺激が始まり、数百ppmに達すると「ノックダウン」と呼ばれる即死状態を引き起こす。
同時に、有機物の分解プロセスは槽内の酸素を著しく消費する。酸素濃度が18%未満に低下した空間に足を踏み入れれば、脳への酸素供給が絶たれ、自力での脱出は不可能となる。救助に向かった同僚まで次々と倒れる「二次災害」が頻発するのも、この無色無臭の酸素欠乏と高濃度ガスの相乗効果によるものだ。