北朝鮮の拷問体質は、自国民だけでなく外国人にも容赦なく向けられます。その危険性を全世界に知らしめた象徴的事例が、2016年に平壌で拘束されたアメリカ人大学生オットー・ワームビア氏の事件です。
観光ツアーで訪朝したワームビア氏は、滞在先ホテルのスタッフ専用フロアから政治スローガンの看板を持ち去ろうとしたという極めて軽微な容疑で逮捕され、わずか1時間の形式裁判で15年の労働教化刑を言い渡されました。その後、1年余りにわたり外部との接触を遮断された彼は、2017年6月に昏睡状態のままアメリカへ送還され、帰国からわずか6日後に息を引き取りました。
北朝鮮当局は「ボツリヌス菌中毒と睡眠薬服用の影響」と主張しましたが、米医療陣の検死結果はそれを完全に否定。脳組織の広範囲な壊死が確認され、長期の酸素欠乏状態、すなわち過酷な身体的虐待や窒息を伴う取り調べが加えられた可能性が強く指摘されました。米連邦裁判所は2018年、北朝鮮政府に対して拷問および人質拘束の責任を認め、5億ドル(当時のレートで約550億円)超の損害賠償支払いを命じる判決を下しています。
さらに悲惨なのは、第三国から北朝鮮へ連れ戻された脱北者たちの運命です。象徴的な事件として記憶に新しいのが、2019年の脱北漁民強制送還事件です。船上で同僚を殺害した凶悪犯であるという北朝鮮側の主張を鵜呑みにした韓国の文在寅前政権は、亡命意思を表明していた漁民2人を軍事境界線の板門店(パンムンジョム)を通じて強制送還しました。護送員に引き渡された瞬間、男性が膝から崩れ落ち、頭を地面に打ち付けて抵抗した凄惨な写真は世界中に衝撃を与えました。
韓国のソウル中央地検によるその後の捜査や情報筋の告発によると、送還された2人は国家保衛省の「拷問部屋」で50日間にわたる熾烈な取り調べを受け、即決処刑されたと伝えられています。中国で摘発され強制送還された脱北女性たちも例外ではなく、国境地帯の集結所で衣服をすべて剥ぎ取られた上での身体検査(体腔検査)や連日の殴打に晒されます。強制送還が意味するのは、ほぼ例外なく「地獄への逆戻り」に他なりません。