旅行者が最初に抱く最大の懸念が「バランスを崩して海に投げ出されるのではないか」という転覆の危険性です。しかし、結論から言えば、指示に従って乗船している限り転覆する可能性は極めて低い構造になっています。
たらい舟(地元では「はんぎり」とも呼ばれます)の起源は、明治時代初期にさかのぼります。小木海岸特有の入り組んだ岩礁地帯で、アワビやサザエ、ワカメなどを採取する「磯ねぎ漁」のために考案されました。狭い岩肌の間を自在に小回りよく動き回るため、味噌樽や洗濯用の桶を改良して作られたのが始まりです。
一見不安定に見える円形の船体ですが、杉の側板を真竹の箍(たが)で強固に締め上げた独自の構造は、極めて低い重心と抜群の浮力・復元力を誇ります。大人が数名乗船して多少揺らしても、起き上がり小法師のように元の水平状態へ復元する物理的特性を備えています。
観光運航を半世紀以上にわたり担ってきた熟練の女性船頭たちは、海の状態や乗船客の体重配分を瞬時に見極めて操船しています。急に立ち上がって片側に体重をかけるといった危険行為を行わない限り、安全かつ穏やかな海上散歩を楽しむことができます。