国際政治の最前線を取材する外交官や特派員の手記・記録を洗うと、教科書に書かれた「主権平等」「内政不干渉」という美しい文言と、冷酷なパワーポリティクスの乖離が浮き彫りになります。
国連憲章第2条第7項は「この憲章のいかなる規定も、本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国際連合に与えるものではない」と定めています。しかし、これまでに勃発した人道危機において、この内政不干渉原則は幾度となく蹂躙されてきました。独裁政権が自国民を虐殺している現場において「それは我が国の国内問題だ」という主張を盾にされた結果、1994年のルワンダ虐殺のような悲劇を防ぐことができなかった苦い歴史があります。
その反省から国際社会は「保護する責任(Responsibility to Protect: R2P)」という概念を掲げ、人権侵害に対して武力介入を辞さない姿勢を模索しました。しかし、今度はその枠組み自体が「他国の政権を転覆させる口実」として悪用されるリスクに直面します。
外交関係者が公の場で漏らす重い吐息の通り、国際法には国内法のような「強制執行を行う世界警察」が存在しません。国際司法裁判所(ICJ)の判決が出ても、常任理事国が拒否権を行使すれば制裁措置は止まります。主権国家体制とは、法の支配で完璧に統治された調和の世界ではなく、「互いに武器を突きつけ合いながら妥協点を探る均衡状態」であるというのが現場の実像です。