周富徳氏の料理人人生は、まさに叩き上げの努力によって切り拓かれたものでした。1943年、神奈川県横浜市の中華街に生まれた彼は、父親も広東料理の料理人という環境で育ち、18歳で本格的に料理の世界へ飛び込みます。
新橋の有名店『新橋亭』などで厳しい下積みを経た後、横浜中華街の現存する最古の中国料理店として知られる名門『聘珍樓(へいちんろう)』の総料理長に就任。伝統的な技法を重んじつつも、日本人の繊細な味覚に合わせた新しい広東料理のスタイルを次々と打ち出し、同店の評判を揺るぎないものへと押し上げました。
その後、京王プラザホテル『南園』を経て、名店『赤坂離宮』の総料理長を務めるなど、名だたる超一級ホテルの厨房を歴任。素材の旨味を最大限に引き出す絶妙な火入れと軽やかな味付けは、当時の美食家たちを唸らせ、日本における広東料理のステータスを飛躍的に高めた立役者となりました。