中井貴一のキャリアを語るうえで、1983年にTBS系で放送が開始された『ふぞろいの林檎たち』を外すことはできない。脚本家・山田太一が手がけた本作は、学歴社会の底辺でもがき、将来への焦燥感とコンプレックスを抱える大学生たちの日常を容赦なく描いた青春群像劇の金字塔である。
彼が演じた仲手川良雄は、四流大学に通う冴えない三流学生。名優の血を引く端正な顔立ちの青年が、見栄を張り、裏切られ、情けなく涙を流す姿は、当時の若者層に強烈なリアリティをもって突き刺さった。サザンオールスターズの名曲群が切なく響く中、中井貴一の若い頃のドラマにおいて、これほど人間の弱さと愛おしさを生々しく体現した作品は他にない。
撮影現場における山田太一の要求は極めて厳格であり、語尾一つ、視線の揺らぎ一つに対しても妥協が許されなかったと伝えられている。偉大な父の影に追われ、自らのアイデンティティを模索していた20代初頭の中井貴一にとって、良雄という役柄は自らのコンプレックスをすべてさらけ出す通過儀礼でもあった。この山田太一ドラマでの徹底的な鍛錬が、美男子の枠に収まらない泥臭い人間味を彼に授けることとなった。