上方芸能の粋と哀歓を一身に背負った巨星、二代目中村鴈治郎。彼が放つ独特の愛嬌と凄みは、古典歌舞伎の枠に到底収まりきるものではなかった。上方歌舞伎の名門である成駒屋の伝統を継承しながら、映画界にも進出し、名匠たちのミューズとして唯一無二のポジションを築き上げた。
その薫陶を直に受けて育ったのが、娘である中村玉緒と、のちに人間国宝となる長男・四代目坂田藤十郎(当時・中村扇雀)である。二代目鴈治郎の芸に対する徹底したリアリズムと情念は、家庭内の日常会話にすら息づいていたという。厳しい芸道の教えと、家族を包み込む温かな眼差し。この父の強烈な背中こそが、のちに波乱の人生を歩む玉緒の精神的な支柱となった。