偉大すぎる父を失った六代目中村勘九郎と二代目中村七之助の兄弟。当時、若くして名門の看板を背負わされた二人が押し潰されそうになったとき、盾となり光となったのが母の存在だった。芸の指導は諸先輩や松竹株式会社の制作陣に委ねつつも、役者としての心の持ちよう、人間としての誠実さを厳しく説き続けた。
兄・勘九郎の真っ直ぐで力強い芸風、弟・七之助の妖艶で深みのある女方。二人がそれぞれの道で大成し、今や現代歌舞伎を牽引する大看板へと成長を遂げた背景には、母の決してブレない信頼があった。「お父さんならどうするか」を問い続けながらも、息子たち独自の個性を尊重し育てる。その絶妙な距離感と深い愛情が、兄弟の才能を大きく開花させた。