映画『窓ぎわのトットちゃん』でも描かれた通り、第二次世界大戦の影は黒柳家にも容赦なく忍び寄った。しかし、アニメや短いエピソードの中では描き切れなかった歴史の暗部が存在する。
戦況が悪化するにつれ、軍部は音楽界にも翼賛体制への服従を強要した。軍歌や戦意高揚を目的とした行進曲の演奏を命じられる中、守綱は断固として魂を売ることを拒んだ。「軍歌を弾くためにヴァイオリンを手にしたのではない」。その頑なな態度は特高警察の監視対象となり、楽団内での孤立や仕事の激減を招いた。
家族を飢えさせないための極限状態にあっても、彼はドイツ・ロマン派のスコアを手放さず、夜な夜な消音器をつけて運指の練習を続けた。芸術の純潔を守るための孤独な抵抗は、死と隣り合わせの静かな闘争だった。