彼の手掛けた映画音楽を語る上で欠かせないのが、石川慶監督の衝撃的なデビュー作『愚行録』である。人間の陰湿な欲望や格差構造を浮き彫りにするサスペンスにおいて、杉山は弦楽器の鋭利な打撃音や不協和音を巧みに配し、観客の心にザラついた恐怖を刻みつけた。映像に安易な感情を付け足すのではなく、スクリーン上の沈黙を補強するようなスコア設計は、公開当時から批評家たちの間で絶賛を浴びた。
さらに、荒井晴彦監督の最高傑作と名高い『火口のふたり』でのアプローチは、全く異なる輝きを放つ。濃密な官能と終末的な世界観が交錯する中で流れる音楽は、毎日映画コンクールにおいて音楽賞を受賞。授賞式でも「映画の呼吸そのものを形にした」と高く称賛された。これらの名作における名作劇伴の裏側には、緻密なスコアリングと、計算し尽くされた無音の設計が存在していたのだ。