「やし屋」の漢字表記である「香具師(やし/こうぐし)」は、平安末期から室町時代にかけて、香木や薬草、漢方薬を寺社の門前で売り歩いた「香具売(かぐうり)」に端を発します。江戸時代に入ると、虫歯の薬を売りながら歯を抜いてみせる「歯抜師」や、傷薬を売る「薬種商」など、大道芸で人を集めて自前の品を売る人々全般を指すようになりました。自らを「野師」や「薬師」と称したことも「やし」という呼び名の語源とされています。
一般に同義語として使われがちな「露天商」「テキ屋」「香具師」ですが、本来のルーツには明確な棲み分けが存在しました。
露天商は、屋外や路上に店を構えて物品や飲食物を販売する営業形態全般を指す最も広い法律・行政用語です。これに対して的屋(テキ屋)は、もともと神社仏閣の境内で弓矢の射的や富くじなどの遊技場を営んでいた「的打(まとうち)」が発祥とされ、やがて縁日の場所割りや飲食屋台を取り仕切る組織へと発展しました。一方の香具師(やし屋)は、前述の通り自ら調合した薬や珍奇な品物を、話術や大道芸で見せながら売りさばく職能集団を指していたのです。
時代の変遷とともに、両者は縁日という共通の空間で協調・同化し、昭和期には祭礼の露天商を取り仕切る代名詞として一体化していきました。