梅田さんの行動は、紛れもなく多くの命を救った英雄的なものだった。しかし、事件後の防災・防犯訓練の現場で強調されるようになったのは、皮肉にも「戦わずに逃げること」の重要性である。警察や鉄道関係者は一貫して、刃物を持った暴漢に対しては「距離を取ること」「荷物を盾にして逃げること」を最優先にするよう呼びかけている。
ここに現代社会の葛藤がある。目の前で誰かが襲われているとき、私たちは自らの命を賭して立ち向かうべきなのか、それとも逃げるべきなのか。梅田さんの勇気ある決断を称賛しつつも、同じ犠牲者を二度と出してはならないという強い意志が、現在の「まず避難する」という護身の基本方針へとつながっている。美談で終わらせない。それが、あの事件から社会が学んだ最も重い教訓の一つだ。