選手として世界の頂点を争った男が、指導者という「裏方」へ完全に舵を切った時、そこには一切の迷いがなかった。トップアスリートが指導者に転じる際、往々にして自らの成功体験という呪縛に囚われがちだ。しかし、彼のアプローチは根本から異なる。自らの感覚を一度完全に解体し、バイオメカニクスや対戦相手のデータ分析を駆使した言語化へと徹底的に落とし込んだ。
選手一人ひとりの骨格や筋出力の特性を見極め、わずか数センチの足の位置、重心移動の初速の違いをミリ秒単位で修正していく。感覚論が支配的だったレスリングの技術指導に、冷徹なまでの客観性と科学的根拠を持ち込んだ功績は極めて大きい。その妥協なき姿勢が、伸び悩んでいた若手を瞬く間に国際レベルへと押し上げる原動力となっている。