国際的な医療現場において、高齢者への処方に慎重を期すべき薬剤の指標として広く知られるのが、米国老年医学会によるビアーズ基準(Beers Criteria)である。この基準では、抗コリン薬や長時間作用型の鎮静薬が高リスク群として明確にリストアップされている。
国内でも日本老年医学会が『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』をまとめ、安易な多剤処方にブレーキをかけようと試みてきた。同ガイドラインでは、75歳以上の後期高齢者に対する精神神経用薬の安易な処方に強い懸念が示されており、厚生労働省も診療報酬改定を通じてポリファーマシー解消に向けたインセンティブを強化している。
老年医学の視点から見れば、加齢に伴う肝機能や腎機能の低下は薬物の代謝と排泄を大幅に遅らせる。若年層であれば数時間で抜ける成分が、高齢者の体内では何十時間も滞留し続けるのだ。結果として、常用量の半分であっても脳にとってはオーバードーズ状態に陥る。