印刷工房の現場やアパレルOEMの生産管理担当者に取材を行うと、現場のプロがシルクスクリーンを手放さない理由は「数字上のコスト」だけではないことが分かります。都内でアパレルファクトリーを営む熟練職人は次のように語ります。
「インクジェットはプリンターのボタンを押せば誰でも同じものが出力されます。しかし、シルクスクリーンは気温や湿度によってインクの粘度をうすめ液で微調整し、スキージーのエッジの研ぎ具合や刷る職人の腕の振り方、力加減で表情が変わる。生地の凹凸にインクが力強く食い込む手応えは、着古したヴィンテージTシャツのような美しいエイジングを生み出します。この物質としての強度が、ブランドの価値を決定づけるのです」
一方、SNSやクラフトコミュニティに集まる一般ユーザーや個人クリエイターの反応を分析すると、自作ならではの熱量と同時に、特有のハードルに対する率直な意見も見受けられます。
「自宅の洗面所で感光乳剤の洗い出しをしたら、光が漏れて版全体が硬化してしまい、3回連続で失敗した。でも、試行錯誤の末に初めてスキージーを引き、Tシャツを持ち上げてバチッとデザインが現れた瞬間の感動は、画面でポチるだけのオンデマンド印刷では絶対に味わえない」(20代・個人ブランド運営者)
「水性インクの乾きが早すぎて、2枚目を刷る準備をしている間に版の網目が詰まって焦った。作業前の版面スプレーや手際の良さが求められるのは、まさにスポーツに近い感覚」(30代・DIY愛好家)
このように、完全自動化されたデジタル社会への反動として、「自分の手でフィジカルなインクを刷り込む体験」そのものに価値を見出すカルチャーが世代を超えて広がっています。