『夕日の丘』における白眉といえば、夕暮れに染まる波止場での別れの場面だ。実はこの名シーン、台本には細かな指示がほとんど書かれていなかった。監督から役者陣に課されたのは、「夕日が落ちるまでのワンテイクで、互いの感情をぶつけ合う」という過酷な要求だった。
リハーサルなしのぶっつけ本番。石原裕次郎が見せたわずかな沈黙と、浅丘ルリ子の瞳に浮かんだ本物の涙。計算を超えた感情のスパークが奇跡的にフィルムへと焼き付けられた瞬間だった。
舞台となった函館をはじめとするロケ地には、今も多くの映画ファンが聖地巡礼として足を運ぶ。夕暮れ時の港に立ち、海風に吹かれながら作品の残り香を探す人々の姿は、半世紀を経ても途絶えることがない。