2013年、ロサンゼルスの悪名高い「セシルホテル」で発生したカナダ人大学生エリサ・ラムの変死事件は、インターネット時代の「ネット探偵」による暴走と悲劇を象徴するケースとなりました。
ロサンゼルス市警(LAPD)が公開したエレベーター内の監視カメラ映像には、誰もいない空間に向かって手足を奇妙に動かし、見えない何者かから身を隠すようなエリサの姿が映し出されていました。その後、彼女は施錠された屋上の大型貯水槽の中から遺体で発見されます。「屋上へのドアは警報器が設置されていた」「重い貯水槽のフタを女性一人で開閉できるはずがない」といった言説がネット上で急速に拡散し、悪魔崇拝や軍の生物兵器実験といった陰謀論へと発展しました。
法医学捜査官の記録およびロサンゼルス郡検視局の正式文書によると、死因は「偶発的な溺死」と結論づけられています。現場の検証から、貯水槽のメンテナンスハッチは発見当時、実際には開いた状態であったことが警察記録で確認されています。また、公表されたエレベーター映像はフレームレートが落とされ、一部がスロー再生されていたため、動作が通常よりも異様に見える視覚的錯覚を引き起こしていたことも判明しました。
遺族の証言および医療カルテの開示により、彼女は双極性障害(躁うつ病)を患っており、旅行中に処方薬の服用を自己判断で中断していたことが明らかになっています。薬の中断による精神病性の妄想状態(極度の被害妄想)が引き金となり、ホテル内を逃げ惑う中で貯水槽へ転落したというのが、すべての物理的・医学的証拠が示す客観的事実です。