市川猿翁の波瀾万丈な生涯|確執と和解、スーパー歌舞伎の真実

市川猿翁の波瀾万丈な生涯|確執と和解、スーパー歌舞伎の真実

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市川猿翁の私生活において、最も世間の耳目を集め続けたのが、長男である香川照之(九代目市川中車)との複雑を極めた親子関係です。

1965年、猿翁は当時トップ女優だった浜木綿子と結婚し、同年末に香川照之が誕生しました。しかし、結婚生活はわずか3年足らずで破綻。猿翁は家庭を捨てて初恋の相手であった藤間紫のもとへと去り、1969年に正式離婚が成立しました。以降、香川照之は母・浜木綿子の手ひとつで育てられ、父の顔を知らずに成長します。

確執の決定打となったのは、1989年の出来事でした。東京大学を卒業して俳優の道を歩み始めた当時23歳の香川照之が、勇気を振り絞って父・猿之助の公演先の楽屋を訪ねた際、猿翁は冷然と言い放ちました。

「大事な公演の前に挨拶もなく突然訪れるなど、役者の仁義に反する。今の僕があるのは藤間紫のおかげであり、あなたとは何の関わりもない。私はあなたのお父さんではない。二度と会いに来ないでほしい」

報道各社や当時の特番インタビューでも明かされたこの過酷な拒絶は、若き日の香川照之の心に深い傷を残しました。しかし、この冷徹な言葉の裏には、自らが選んだ修羅の道に対する覚悟と、中途半端な情で息子を巻き込みたくないという猿翁特有の極端な美学が存在していたと分析されています。

氷解の瞬間が訪れたのは、2011年秋のことでした。猿翁の精神的支柱であった藤間紫の逝去(2009年)や、猿翁自身のリハビリ生活を経て、父子は実に45年ぶりの再会を果たします。香川照之の長男・政明(現・五代目市川團子)の存在が二人の架け橋となり、猿翁は孫を抱き上げて「かわいいね」と涙をこぼしたと伝えられています。

2011年9月の記者会見で、香川照之の九代目市川中車襲名と政明の五代目市川團子初舞台が発表された際、壇上に並んだ父子の姿は歌舞伎史に残る歴史的瞬間となりました。香川照之が語った「自分自身が父になることで、父が犯した弱さや業(ごう)を受け入れられるようになった」という告白は、家族の再生を象徴する重みを持っています。

吉田 誠
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吉田 誠

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