甲子園には魔物が棲む。誰もが知るその格言を、高川学園の選手たちはあらかじめ「計算可能な変数」として対処していた。
ノーアウト満塁のピンチ。内野陣がマウンドに集まる。緊迫した場面にもかかわらず、選手たちの口元には微笑みすら浮かんでいた。「練習通りのピンチだね」。内野手の一人は試合後、こともなげに振り返った。同校では日頃の練習から、最悪のシナリオ(無死満塁、ボールカウント3-0など)を意図的に作り出し、心拍数が跳ね上がった状態での意思決定シミュレーションを反復してきた。パニックを構造的に防ぐ仕組みが、極限状態での兵器のような併殺打を生み出した。