彼の名を語る上で、日本の魚類学の歴史に残る「クニマス再発見」のドラマを外すことはできない。
2010年、京都大学の中坊徹次教授(当時)から近縁種ヒメマスのイラスト執筆を依頼されたさかなクンは、全国から取り寄せた標本の中に違和感を抱いた。山梨県の西湖から届いた黒っぽい個体の形態的特徴を見逃さず、「これは秋田県の田沢湖で1940年代に絶滅したはずのクニマスではないか」と直感したのだ。詳細な遺伝子解析と形態観察の結果、70年近く絶滅したと信じられていたクニマスが西湖で生き残っていたことが科学的に証明された。
この大発見は日本中を震撼させ、魚類学者でもある上皇陛下(当時の天皇陛下)が誕生日会見において、さかなクンの功績を実名で挙げながら感謝と称賛の言葉を述べられたことは記憶に新しい。直感を支えたのは、数万匹に及ぶ魚を自らの手で解剖し、描き、観察し続けてきた圧倒的な現場経験だった。