そもそも、なぜ5区だけがこれほど特殊なのか。それは、人間の限界に挑む物理的な条件が揃っているからだ。
小田原から芦ノ湖までの高低差は、東京タワー約2.5個分に相当する。この坂を時速20キロ近いペースで走り続けるには、常人離れした最大酸素摂取量(VO2 max)が必要となる。さらに、下半身への負担は平地の数倍に達する。歴代の山の神たちに共通していたのは、前傾姿勢を維持しながら、歩幅(ストライド)を狭めて回転数(ピッチ)を上げる独特の走法だ。これによって、乳酸の急激な蓄積を防ぎ、心臓への負担をコントロールしていた。彼らの走りは、精神力だけでなく、緻密なバイオメカニクスに基づいた科学の結晶でもあったのだ。