エッセイで見せる痛快な切れ味とは対照的に、室井滋がライフワークとして情熱を注ぎ込んできたのが児童文学・エッセイの境界を溶かす絵本制作である。なかでも株式会社金の星社から出版された絵本『しげちゃん』は、彼女自身の幼少期の体験をベースにした名作として読み継がれている。
自分の名前が男の子みたいで大嫌いだった少女時代の葛藤。そこに絵本作家・長谷川義史の大胆で温かみあふれる筆致が重なり、親から子へと贈られた「名付け」という最初の愛の記憶が見事に描き出された。絵本を開くたび、幼い日の自分を抱きしめ直すような感覚に包まれる。彼女の児童書は、子どもだけでなく大人の涙腺をも激しく揺さぶる力を持っている。