企業がクレームのリスクを冒してまで定員超過を発生させる背景には、サービス産業特有の「在庫を翌日に持ち越せない」という構造的弱点が存在します。オーバーブッキングの理由を紐解くと、行動経済学と高度なレベニューマネジメント(収益管理)の論理が浮き彫りになります。
旅客機が一度離陸してしまえば、空席のまま飛んだシートの価値は瞬時にゼロになります。ホテルの客室も同様で、空室のまま朝を迎えればその日の売上を取り戻す術はありません。一方で、予約者の一定割合は直前の旅程変更や体調不良、あるいは何の連絡もなく現れない「ノーショー(無断キャンセル)」を起こします。
関係者への取材や航空業界の統計データによると、ビジネス客が多いドル箱路線では、キャンセル料が無料または安価な普通運賃の予約において5〜10%程度のキャンセルが常時発生します。もし定員通りに予約を打ち切っていれば、出発時には必ず数席から十数席の空席が生じ、企業にとっては莫大な逸失利益となります。
そこで各社は、過去数十年の膨大な予約実績、曜日、天候、大型イベントの有無などをAIに学習させ、「最終的に何人がキャンセルするか」を高精度で予測します。例えば「100席の飛行機に対し、統計上5人がキャンセルする見込みなら、あらかじめ105件の予約を受け付ける」という計算式を成り立たせているのです。予測が完全に的中すれば、搭乗ゲートが閉まる瞬間にちょうど満席となり、機体重量あたりの収益効率を極限まで高めることができます。