キキが居候することになる「グーチョキパン屋」や、物語のクライマックスで飛行船が引っかかる「街のシンボルである大時計塔」。これらの固有オブジェクトにも、ファンを惹きつけてやまない実在のモデルや逸話が存在します。
タスマニアの「ロス・ベーカリー」に宿るファンの祈り
海外聖地巡礼のハイライトとして必ず名前が挙がるのが、オーストラリア・タスマニア州の小さな村ロスに佇むロス・ベーカリー(Ross Bakery)です。1860年代に建造された伝統的なレンガ造りのパン屋であり、100年以上前の巨大な薪窯で現在もパンを焼き続けています。
このベーカリーが世界的に有名になったのは、パン屋の構造と屋根裏部屋の佇まいが、オソノさんの営むグーチョキパン屋の生活空間と驚くほど酷似していたためです。かつてバックパッカーの間で噂が広まり、巡礼者が殺到した結果、店舗側も屋根裏の一室を「Kiki’s Room」として改装。宿泊客を受け入れるようになりました。ジブリの公式ロケ地ではないものの、現地の香ばしいパンの匂いと温かな木造空間は、訪れる者にキキの下宿生活そのものを追体験させてくれます。
時計塔のモデルは実在するのか?
コリコの街の中央に聳え立つ、緑青色の巨大な時計塔。この建造物に関しても「特定の1つの塔」を完全複製したものではありません。ロケハン地であるストックホルム市庁舎の四角く無骨なレンガ造りの塔(高さ106m)の重厚感や、ドイツやスイスなど中央ヨーロッパ各地の中世教会に見られる複雑な時計機構とからくり時計の意匠を抽出し、宮崎駿監督の頭の中で再構築されたデザインです。
特に針にぶら下がるシーンに見られるメカニカルな巨大歯車や文字盤のスケール感は、時計が都市住民の共同体的なシンボルとして機能していた中世都市へのオマージュであり、現実のストックホルムの歴史的建造物を観察したからこそ描けた圧倒的な質感といえます。