『シフクノオト』に収録された『タガタメ』が生まれた背景には、2003年当時の世界情勢と日本国内の不穏な空気が色濃く影を落としています。当時、アメリカ軍によるイラク侵攻が始まり、テレビ画面には連日、空爆の映像や倒壊した街の惨状が映し出されていました。一方で、日本の茶の間ではいつものバラエティ番組や映画が放送されており、極限の戦場と平和な日常がひとつの画面のなかで並行して消費されていたのです。
当時の音楽雑誌のロングインタビューにおいて、桜井和寿はテレビのスイッチを入れた瞬間の強烈な違和感を率直に述懐しています。遠い中東の地で爆撃に怯える人々がいるすぐ隣で、日本の若者は週末の過ごし方に頭を悩ませている。そのグロテスクなコントラストが、冒頭の「ディカプリオの出世作なら さっき僕が録画しておいたから」という生々しい導入に結実しました。
さらに桜井の胸を締め付けたのが、当時日本国内を震撼させた幼児誘拐事件などの凶悪犯罪でした。幼い命が理不尽に奪われたというニュースに接した際、桜井自身も一人の親として「もし自分の子供が被害に遭ったら、相手を殺してしまうかもしれない」という激しい復讐心や殺意が芽生えたと告白しています。しかし同時に、その感情こそがまさに国家間の戦争を引き起こす「目には目を」の憎悪の連鎖そのものであることに気づき、戦慄を覚えたといいます。善悪の境界線はどこにあるのか、なぜ人は正義の名のもとに引き金を引いてしまうのか。自らの内面に湧き上がった暗部から逃げることなく対峙したことこそが、桜井和寿のタガタメ制作秘話における決定的な出発点でした。