旅立ちの直前、それまで出すことのなかった異様な大声で突然鳴き叫んだり、深夜に執拗な夜鳴きを繰り返したりする姿に、胸を引き裂かれるような思いを抱く飼い主は少なくありません。「どこか痛むのではないか」「苦しくて助けを求めているのではないか」と動揺する場面ですが、この発声にも明確な神経学的・生理的機序が存在します。
一つは、二酸化炭素の蓄積と脳幹の低酸素症に伴う「せん妄・不穏状態」です。心臓機能と呼吸機能が衰えると、血中酸素濃度が急激に低下し、脳へ十分な酸素が供給されなくなります。これにより意識レベルが混濁し、自身の置かれている状況が把握できなくなった猫は、本能的なパニックや幻覚に似た知覚障害から、無意識のうちに絞り出すような声を上げてしまうのです。人間でいう終末期の不穏状態と同様であり、必ずしも耐え難い肉体的激痛に直面しているわけではありません。
もう一つは、声帯筋や横隔膜の不随意運動(ミオクローヌス)です。呼吸筋が停止に向かう過程で、神経反射により胸郭が大きく動き、肺に残った空気が声帯を通過する際に「叫び声」や「唸り声」のような音として漏れ出ることがあります。意識がすでに消失している終末期反射の一つであるケースも多く見られます。
ただし、意識が辛うじて残っている段階で、飼い主の姿を求めて「寂しさ」や「不安」から鳴いている場合もあります。この際、猫は呼びかけるように視線を彷徨わせます。こうした声を聞いた時は、慌てて抱き上げたり揺さぶったりするのではなく、穏やかなトーンで名前を呼び続け、額や首元を優しく撫でて「ここにいるよ」という振動を伝えてあげることが、中枢神経の興奮を和らげる最良の手立てとなります。