物語の結末において、読者が最も気に掛ける「2人は付き合うのか」「肉体関係を結ぶのか」という懸念に対し、本作は完璧な誠実さで応えています。原作漫画の最終回(全10巻)において、近藤とあきらは一切交際せず、恋人関係にはなりません。
あきらが近藤に惹かれた真のトリガーは、アキレス腱断裂という大怪我によって「陸上選手としてのアイデンティティ」を突如奪われ、深い絶望の淵に立たされていた時期に、偶然立ち寄ったファミレスで近藤の何気ない優しさに触れたことでした。一方の近藤もまた、かつて純文学の作家を志しながら挫折し、夢を諦めたまま日々のルーティンに埋没していた45歳でした。
あきらが向けた激情は、異性への性愛というよりも「喪失感の中で見出した唯一の希望へのすがりつき」であり、近藤が抱いた想いは少女を消費することではなく「かつて何かに命懸けだった自分の若き日の残影への憧憬と庇護欲」でした。近藤はあきらの想いを決して粗末に扱わず、かといって大人としての踏み越えてはならない一線を絶対に越えませんでした。
最終的に、近藤の静かな励ましを受けたあきらはリハビリを乗り越えて再び陸上のトラックへと戻り、あきらの眩しい情熱に背中を押された近藤は一度捨てた小説執筆の机に向き直ります。恋が成就したのではなく、ふたりがそれぞれの「雨上がり」の青空へ歩み出すラストシーンこそ、本作が単なる恋愛漫画の枠組みを大きく超えた証拠です。