伝統的な料亭が培ってきたもてなしの心は、決して閉ざされた空間だけに存在するものではない。株式会社菊乃井を率いる主人・村田吉弘氏が「本物の和食を、もっと多くの人に気兼ねなく楽しんでほしい」という情熱から立ち上げたのが、「無碍山房 Salon de Muge」である。すぐ隣に構える菊乃井 本店が極上のハレの日を演出する舞台であるならば、こちらは上質な日常に寄り添う美食の拠城だ。
格式高い京料理・懐石料理の世界では、一席あたり数万円を要することも珍しくない。しかし、ここではその至高の調理技法と素材選びの哲学を、気軽な甘味処・カフェや昼の御膳という形態に落とし込んでいる。妥協のない出汁の引き方、選び抜かれた器の質感、そして無駄を削ぎ落とした庭の借景。すべてが一流の美意識で満たされつつも、肩肘を張らずに過ごせる絶妙な温度感が保たれている。