壁の高さが高くなればなるほど、人々の視界から海は消える。宮城県気仙沼市では、当初計画された海面からの高さに対して地域住民から強い異論が沸き上がった。海とともに生きてきた漁師や観光業者にとって、水平線が見えない生活環境を受け入れることは、街のアイデンティティそのものを失うに等しかったからだ。
気仙沼市の内湾地区では、行政と住民が何度も膝を突き合わせた議論を重ねた。結果として防潮壁の高さを抑える代わりに、背後地の嵩上げや避難ビルの配置、透明な特殊ガラス窓を組み込んだ防護壁の採用など、柔軟なアプローチが選択された。この歴史的苦悩と合意形成のプロセスは、ドキュメンタリー番組のNHKスペシャルなどでも大きく取り上げられ、安全のために景観をどこまで犠牲にすべきかという重い問いを全国に投げかけた。