適切な封筒を選んでも、文字の書き方や紙幣の入れ方に誤りがあると、受け取る側に違和感を与えてしまいます。冠婚葬祭の作法に精通した専門家が指摘する、表書きの記述ルールとお札の取り扱い手順を詳細に解説します。
まず表書きの名目ですが、水引の上段中央に書く文字は「御車代」または「御車料」とするのが一般的です。受付やスピーチのお礼として手渡す場合は「御礼」や「寿」と記すケースもありますが、交通費の名目で渡す以上は「御車代」と記すのが最も自然で明確です。
水引の下段には、現金を贈る側の名前を記載します。ここでの基本ルールは「招待した側の名字」を書くことです。新郎側の来賓や友人であれば「新郎の名字」、新婦側であれば「新婦の旧姓名字」を単独で記します。一方で、夫婦共通の恩師や、両家が同等にお世話になっている主賓に渡す場合は、中央に新郎の名字、その左側に新婦の旧姓名字を並べる「連名」表記を用います。重要なのは、封筒の表面にも裏面にも「受け取る相手の名前」は絶対に書かないという点です。相手の名前を封筒に直接書いてしまうと、宛名書きの郵便物と同列になり、慶事の金封としての格式を損ねてしまいます。誰に渡すかを取り違えないためのメモが必要な場合は、封筒の表に直接ペンを入れるのではなく、付箋を貼って手渡し直前に剥がす運用を徹底してください。
文字を筆記する筆記用具のマナーにも注意が必要です。慶事であるお車代では、「濃い黒色の毛筆または筆ペン」を使用するのが絶対の鉄則です。不祝儀に用いられる「薄墨」は絶対に避けなければなりません。また、現代の事務作業で一般的なボールペン、油性サインペン、万年筆による手書きは、略式封筒であっても「ぞんざいに済ませた」という印象を与えるため避けるべきです。どうしても毛筆に自信がない場合でも、硬筆タイプの慶事用筆ペンを用意し、楷書で丁寧に書く姿勢が求められます。
封筒の中に入れる紙幣は、銀行の窓口等で事前に両替した「新札(ピン札)」を用意します。破れや折り目のついた流通紙幣を入れることは、お祝いの席において明らかな失礼にあたります。お札を封筒に入れる向きには厳格な作法があります。紙幣の表側(肖像画が印刷されている面)を封筒の正面に向け、かつ「肖像画の頭部が封筒の上側(封入口側)」にくるように収めます。ポチ袋を使う場合は、肖像画を表に向けた状態で左から右へと三つ折りにし、封筒の表面に対してお札の表側が向くように配置してください。
最後に、封筒の口を閉じる際の「のり付け」についてです。多くの新郎新婦が迷いやすいポイントですが、お車代の封筒は「原則としてのり付けしない」のが現場の共通マナーです。祝儀袋と異なり、お車代を受け取ったゲストは、ホテルや移動の合間に中身を確認したり、領収書の整理を行ったりすることが想定されます。糊で強固に密閉されてしまうと、開封時に綺麗な和紙を破かざるを得ず、相手に余計な手間を取らせてしまいます。封入口は軽く折り返すだけで十分であり、もし持ち運び時の飛び出しが心配な場合は、剥がしやすい小さな慶事用シールや「寿」の封緘シールを軽く添える程度に留めるのが最も洗練された配慮です。