メディアやインターネットを激しく騒然とさせた最大の争点は、大挙して押し寄せた一部採取者たちによる「牡蠣殻の大量放置問題」でした。現場となった市川市の妙典地区周辺では、河川敷に数メートルにわたって牡蠣の殻がうず高く積まれ、異臭を放つ異様な光景が広がっていました。
現場を訪れた地域住民やレジャー客を激怒させたのは、身だけを取り出して持ち帰り、重くて処分に困る殻をその場に捨てていく手口です。干潟や浅瀬に放置された牡蠣の殻は、まるでカミソリのように鋭利です。水遊びをしていた子どもが足を滑らせて皮膚を深く切り裂き、救急搬送されて何十針も縫う大怪我を負う痛ましい事故が頻発しました。ウィンドサーフィンやSUP(サップ)の愛好家からも、安全に水辺に入ることすらできないという悲鳴が上がったのです。
ここで大きな障壁となったのが、現行法における「法脈の隙間」でした。当時、テレビの取材陣や市民から「なぜ警察は密漁として全員を逮捕しないのか」という疑問が噴出しました。しかし、江戸川放水路の該当水域には、地元の漁協に独占的な採捕を認める「第一種共同漁業権」が設定されていませんでした。つまり、法的には「誰のものでもない自然の貝を拾う行為そのもの」を、漁業権侵害(漁業法違反)として取り締まることができなかったのです。
しかし、採取が自由であることと、何をしても許されることは全く同義ではありません。河川敷や水底に剥いた殻を投げ捨てる行為は、明確に「廃棄物処理法違反(不法投棄)」に該当します。廃棄物の処理及び清掃に関する法律第16条では、何人もみだりに廃棄物を捨ててはならないと定めており、違反者には「5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(またはその併科)」という極めて重い刑事罰が科されます。また、国土交通省が管轄する河川法第29条(河川の流水等に悪影響を及ぼす行為の禁止)や地方自治体の環境美化条例にも完全に抵触する犯罪行為なのです。