物語は、外交官の夫を持ち、自身も新進気鋭の作家として名声を博す佳子(よしこ)の書斎から始まります。毎朝、夫を送り出した後にファンレターや原稿依頼の手紙に目を通すのが彼女の日課でした。ある日、封筒に差出人の名がない分厚い原稿のような手紙を見つけ、好奇心から封を開きます。
手紙の主は、類稀な技術を持ちながらも醜悪な容貌に強い劣等感を抱える名もなき椅子職人でした。男は手紙の中で、高級ホテルから注文を受けた大型の肘掛け椅子(安楽椅子)を製作する過程で、椅子の中に空洞を作り、自分自身がすっぽり入り込める構造に改造したという戦慄の狂行を告白します。
男は水と乾パン、排泄用のゴム袋を携えて椅子の中に潜伏し、注文先のホテルへと運び込まれます。ホテルのロビーで数多くの高官や女性たちを「椅子の中から」背中で支え、相手が気づかない状態でその体温や息遣い、微細な肉体の動きを皮膚一枚越しに享受する――。やがて男の感覚は異常なまでに研ぎ澄まされ、現実の人間関係では決して得られない「究極の触覚的快楽」に溺れていきます。 (出典: 人間 椅子 江戸川 乱歩(Yahoo!ニュース))
しかし、ホテルの模様替えに伴い椅子は古道具屋へ売却され、新たな持ち主の邸宅へと引き取られます。その引き取り先こそが、まさに今この手紙を読んでいる佳子の邸宅の書斎だったのです。男は日頃から佳子の体温を感じるうちに彼女へ狂気的な恋情を募らせ、「いま私は、あなたが座っているその
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