夜明け前の静けさに包まれる豊洲市場。名だたる仲卸が立ち並ぶ一角で、店主の鋭い視線が赤身の断面を射抜く。脂の乗り、身の締まり、そして温度変化による酸味の立ち方まで見極められたマグロだけが、仕込み場への切符を手にする。
この徹底した選定を経て提供されるのが、予約客の誰もが息をのむ「極上おまかせ握りコース」だ。先付から始まる一連の構成は、まさに味覚のタペストリー。熟成によって旨味を極限まで引き出した中トロは、人肌のシャリと合わさった瞬間に舌の上でふわりと解け、濃厚なコクと上品な酸味の余韻を残して消えていく。
季節ごとに組み替えられる小鉢や焼き物も秀逸だ。旬の魚介が持つ本来の力強さを余すところなく引き出す技法は、多くの常連がこのコースを目当てに再訪を誓う理由を雄弁に物語っている。