ボノボ社会の平和を支える最大の特徴が、性行動をコミュニケーション手段として活用する独自の文化です。
著名な霊長類学者フランス・ドゥ・ヴァール(Frans de Waal)は、チンパンジーが「権力闘争によって社会問題を解決する」のに対し、ボノボは「性的な親密さによって社会問題を解決する」と喝破しました。ボノボにとって性行動は単なる生殖行為ではなく、挨拶、仲直り、興奮の鎮静、そして貴重な食物を分け合う際の緊張緩和ツールです。異性間だけでなく同性間(メス同士の性器接触である「ホカホカ」など)でも頻繁に行われ、ストレスや敵意を瞬時に和らげる社会的潤滑油として機能しています。
この対立回避システムの違いは、極限状態における行動にも現れます。野生の霊長類で時折議論となるチンパンジーとボノボの共食いの真相について、チンパンジーでは他の群れの子どもを殺害して肉を食べる「子殺し・共食い」が複数の観察現場で記録されています。これはオスの繁殖戦略や激しい縄張り争いの副産物と考えられています。一方でボノボにおいては、他個体への致命的な攻撃や計画的な子殺しは極めて稀であり、殺戮を伴う共食いは基本的に確認されていません。平和的な関係構築に特化した進化が、こうした凄惨な衝突を未然に防いでいるのです。