歴史の荒波の中で、特定の将校にまつわる記録は時として伝説化されたり、あるいは歴史の狭間に埋もれたりすることが少なくありません。高橋丑太郎にまつわる真相を巡っても、一部で様々な風聞や脚色が語られることがありました。
しかし、防衛研究所所蔵の史料や連隊史、当時の公信書類を突き合わせて精緻な検証を行うと、実態はよりプロフェッショナルな軍人像であったことが判明します。特筆すべきは、上官からの理不尽な命令に対して現場の窮状を具申し、部隊の壊滅を防ごうとしたとされる記録の存在です。
当時としては異例とも言えるこのような行動は、軍内部での軋轢を生むリスクを孕んでいましたが、高橋中尉は私利私欲ではなく部隊の保全と大局的な勝機を見据えて行動していました。この「隠された事実」こそが、公式記録の行間から読み取れる高橋丑太郎という軍人の真の凄みと言えます。