物質の名称に共通して含まれる「フッ」という言葉が混乱の元凶となっていますが、化学の世界では「元素」「単体」「化合物」の区別が極めて厳密になされています。
元素記号「F」で表されるフッ素は、すべての元素の中で最も電気陰性度が高く、電子を猛烈な勢いで奪い取ろうとする性質を持っています。このフッ素原子が2つ結びついた気体単体(F₂)が「フッ素ガス」です。フッ素ガスの酸化力はあらゆる気体の中でも最強クラスであり、水と接触しただけで激しく反応して酸素を追い出し、ガラスや金属はおろか白金すらも侵食します。その強い反応性ゆえに、自然界に単体として遊離した状態で存在することはまずありません。
一方、フッ素と水素が1対1で結合した無機化合物がフッ化水素(化学式:HF)です。沸点が19.5℃と室温付近にあるため、気体または液体として存在します。このフッ化水素を水に溶かした水溶液が「フッ化水素酸」、通称「フッ酸」と呼ばれます。一般に酸の強さとしては弱酸に分類されますが、後述する特異な浸透性と腐食性を持つため、毒物及び劇物取締法において医薬用外毒物に指定されています。
これらに対して、歯磨き粉や歯科の予防処置で使われるものは「フッ素の化合物(フッ化物)」です。フッ素原子がナトリウムなどと強固にイオン結合し、電子的に極めて安定した状態(F⁻)になっているため、フッ素ガスやフッ酸のような激しい反応性や組織破壊能は持ち合わせていません。