インターネット上で「肺高血圧症」を検索すると、過去の古いデータに基づいた「余命2〜3年」というショッキングな記述を目にすることがあります。しかし、現代の医療水準においてその数字は過去の遺物と言わざるを得ません。
日本循環器学会等のレジストリデータによると、1990年代前半の特発性PAHにおける診断確定後の平均生存期間は約2.8年と極めて厳しいものでした。当時は肺血管を直接拡張させる有効な薬剤が存在せず、対症療法にとどまっていたためです。
その状況は1990年代後半のエポプロステノール(持続静注薬)導入を皮切りに一変しました。さらに複数の作用機序を持つ経口治療薬の登場と早期からの多剤併用療法(コンビネーションセラピー)が標準化された結果、診断後5年生存率は80%〜85%以上へと跳ね上がっています。10年以上の長期にわたり社会復帰を果たし、日常生活を維持している患者も珍しくありません。
また、CTEPHに関してもカテーテルを用いた「バルーン肺動脈形成術(BPA)」の技術革新が日本主導で進み、外科手術が困難だった症例でも肺動脈圧を正常値近くまで下げることが可能になりました。「宣告されたら終わり」の病気ではなく、「早期に適切な専門治療を開始し、長期コントロールを目指す慢性疾患」へとパラダイムシフトが起きています。