なぜ、彼はこれほどまでに病を隠し続けたのか。そこには、夏八木が終生抱き続けた「役者としてのプライド」があった。もし自分が末期がんだと知れ渡れば、周囲のスタッフや共演者は気を遣い、同情の目で自分を見るだろう。それは彼にとって、表現者としての死を意味していた。
「同情されたら、芝居が濁る」。彼はそう信じて疑わなかった。だからこそ、痩せ細っていく体を衣装で覆い、メイクで顔色を整え、普段通りに現場に入った。撮影現場で彼が見せた笑顔や厳しい演技指導は、病魔との壮絶な闘いの最中にあったとは到底信じられないものだった。