保見光成が事件を起こした直接の動機はどこにあったのか。裁判や捜査の場において、彼は「被害者たちから執拗な嫌がらせを受け、農薬を撒かれた」「愛犬を殺されかけた」といった怒りを主張した。一見すると被害妄想のようにも聞こえるこれらの訴えだが、高橋ユキ氏が現地で根気強く聞き込みを重ねると、あながち全否定もできない村独特のリアルな摩擦が浮かび上がってくる。
閉鎖的な集落における噂話の破壊力は絶大だ。一度「コミュニティの秩序を乱す異物」の烙印を押された者は、どれほど地域に貢献しようとしても拒絶される。保見受刑者の持っていた「過疎の村を元気にしたい」という意欲は空回りし、やがて村人たちへの強い被害意識と憎悪へと変質していった。犯行の引き金となったのは、長年にわたって積み重なった絶望感と、誰にも助けを求められないという極限状態の心理的破滅だったといえる。