北淡震災記念公園の敷地内を歩くと、ひときわ異彩を放つ赤茶けた巨大な構造物と出遭う。かつて神戸市長田区の若松町に存在した「神戸の壁」だ。1927年頃に防火壁として建てられたこの耐火レンガ壁は、太平洋戦争中の神戸大空襲を耐え抜き、さらに阪神・淡路大震災に伴う凄まじい大火災の猛火をも生き延びた。
周囲の住宅街がすべて黒焦げの瓦礫と化した中で、孤高の如く立ち残ったこの壁は、被災した市民にとって復興への希望の象徴となった。区画整理事業に伴い解体の危機に瀕した際、この歴史的遺物を後世に残すべく現地へ解体・移設されたのだ。黒く煤けた表面とひび割れた質感は、火災が街を一瞬で飲み込んだあの日の恐怖を静かに語りかけてくる。同時に、幾多の苦難を乗り越えて立ち上がってきた人々の生命力の力強さを、私達に突きつけている。