危機の渦中における官邸主導の意思決定は、かつてないスピード感で進められた。公衆衛生政策として世界各国が試行錯誤を繰り返す中、全世帯配布という前例のない手法を選択した背景には、感染拡大に対する強い危機感があったことは間違いない。しかし、その決定過程において感染症の専門家や実務方との十分な協議がなされていたかについては、現在も議論が絶えない。
緊急事態という特殊な環境下においては、完璧な合意形成を待つ余裕はない。だが、科学的エビデンスに基づく感染予防効果と、政治主導による象徴的施策の優先順位が交錯した結果、現場には多大な負荷が集中した。スピードを重視するあまり、政策の検証可能性が後回しにされた歪みは、その後の行政評価にも深い影を落としている。